『この世は絶望に満ちている』
誰かが酒の席で話していた。
誰が言っていたのかは思い出せない。
会社の先輩であったか、大学の先輩だったか。
友達かもしれないし、以前付き合っていた彼女かもしれない。
重要なのは『誰が言っていたか』ではない。
その、言葉の重みなのだ。
恵まれた時代、恵まれた環境。
この国では血を流すような戦争もなく、苦役を強いられる事もない。
それが、幸せなのかは分からない。
ただ、少なくとも不幸せだとは思えない。
それを、『絶望に満ちている』と、この世を断絶することに衝撃を受けたのだ。
その言葉は、日を増すごと、年を重ねるごとに僕の中で形を変えていった。
フレーズを生み出すことを生業としているにも関わらず、その単語の組み合わせに驚嘆したのだ。
紡ぎ出した単語の集まりは、明確な拒絶を前に行き場を見失ってしまった。
もし、この世が絶望に満ち溢れていると言うならば、その言葉こそが絶望の淵を漂っているのであろう。
仕事とは何か。
自分とは何か。
絶望とは何か。
明確な答えが出ないまま、それでも僕は呼吸を続けていた。
~つづく~
雑踏の影~第四話~
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