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2024/05/03 02:48 |
放課後のハミング~第一話~
中学1年生の僕は荒れていた。
と言っても、俗に言う『不良』とは一線を画しているつもりだ。
力で訴えるのではなく、頭で訴えるのだ。

同級生より頭一つ分小さい僕は、腕力では勝てない。
でも、勝負を易々と捨てるような冷静な判断力は生憎と持ち合わせていなかった。

僕は、人を怒らせるのが好きだ。
と言っても、怒られているという感覚はない。
僕に向かって『怒り』を露にする相手を、客観的に見て笑うのだ。
特に、相手が大の大人であると、より一層とおもしろい。
十三歳の僕に向かい、顔を赤らめながら発狂に近い形相で怒号を投げかける。
それは、ゴールデンタイムのバラエティとは比にならない程の愉快さだ。

今日も例外ではない。
僕は、生徒指導室に呼び出されていた。
「おまえ、自分のしたことが分かってるのか!」
「分かってますよ。」
「おまえ・・・、何だその態度は!自分の立場が分かっているのか!!」
「だから、何度も言わせないで下さいよ。キッチリ分かってます。」

何のことはない。
タバコを吸っていたのを見つかったのだ。

「何でいつもそうなんだ!おまえには反省する気がないのか!」
「逆に聞きますけど、毎回同じ事言ってて飽きません?」
「もう飽き飽きしてるわ!」
「いやぁ、嬉しいですね。初めて意見が合いましたよ。」
「ん?どういう事だ?」
「僕はこの場所に退屈していて、先生は説教に飽き飽きしている。早く終わらせませんか?」
「だから、その態度が許せないんだ!何度言ったら分かるんだ。」
「だから・・・分かる気がないんですよ。僕には。」
「おまえもバカじゃないだろ?何でお兄さんみたいにできないんだ!」
「兄貴は関係ねぇだろ、筋肉バカ!」
「バカだと?おまえ、言っていいことと悪いことがあるぞ。」

『来た!』

これは、嵐の前の静けさである。
このトーンになったら、完全に教師は冷静さを失っている。
今こそ、畳み掛ける絶好機であるのだ。

「言っていいことと悪いことですか・・・ふ~ん。じゃぁ、聞きますが生徒を兄弟と比較して責めることは言っていいことなんですか?」
「屁理屈を言うな!」
「屁理屈だなんて、横柄な。間違ったことは言ってないですよ。そもそも、僕がタバコを吸うことで誰に迷惑をかけました?」
「バカヤロウ!迷惑とかそういう問題じゃない!おまえは法を犯してるんだ!犯罪者だ!」
「犯罪者ですか。じゃぁ、生徒に向かって今みたいに怒号を挙げるのは脅迫じゃないですか?」
「だから、屁理屈を言うなと言っているだろ!」
「分かりました、では話すことはありませんので、失礼します。」

そう告げ、僕は生徒指導室を出た。

「待て!話は終わってない!」

後ろで叫び声が聞こえるが、僕は振り返らない。
これから、僕には重要な仕事があるのだ。
それは、『今日のお説教』をクラスメートに面白可笑しく伝える事である。

僕を生意気なクソガキと思う人も多いと思う。
しかし、僕はそれを期待しているのだ。
周りの期待を裏切ることこそが、エンターテイメントであると思う。
人に予測される通りの生き方など、何の面白みをも感じられない。

僕自身にキャッチコピーを付けるとすれば、さしずめ『期待裏切り度ナンバー1』と言ったところであろうか。
頭の固い大人になるくらいなら、今が楽しければいい。

僕は、そう思っていた。

~つづく~
放課後のハミング~第二話~
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2007/09/05 23:04 | Comments(0) | TrackBack() | 放課後のハミング
放課後のハミング~第二話~
教室に戻った僕を待ち受けていたのは、興味と関心が滲み出るような目をしたクラスメート達であった。

「どうだった?」

クラスメートが言った一言を皮切りに、僕の周りに人が集まってきた。
集まっては来ないまでも、聞き耳を立てている人がいることも知っていた。
それから、僕は事の成り行きを冗談を交えて大きな声で話した。

話が一段落するとクラスメートは散り散りになっていった。
僕は、カバンを取り帰る準備を始めた。
時は昼休みだが、午後の授業は受けずに帰ることに決めた。
お説教の後は、疲れるのだ。
話を聞きつけた人たちが、僕に説明を求めてくる。
だが、話す側としては、同じ話を何度も話す事ほどつまらないものはないのだ。
だから僕は、いつも通り保健室に行き、誰が見ても分かるような『体調不良の演技』をして帰る。

教室を出ると、五時間目の英語の教師がいた。
『しまった。』
そう思った。
五組の担任でもある英語教師は、二年目の新米教師でとにかく暑苦しい。
きっと、教師という職業に幻想を抱いているのだろう。
『どんな生徒も話せば理解してくれる』
そんな暑苦しさが滲み出ていて、その様子が僕の反逆精神を煽る。
だが、英語教師はお構いなしに話しかけてくる。

「もう帰るのか?」
「ちょっと調子が優れないんで。」
「顔色もいいのに、どこが調子悪いんだ?」
「頭が割れるように痛いんです。」
「タバコの吸いすぎじゃないのか?」
「そんなに吸ってませんよ。一箱で一週間持ちますから。」
「やっぱり、見つかったのはおまえか。」

僕がこの教師を認めているは、他の教師と違い頭ごなしに叱る事しない点である。

「じゃぁ、そろそろ帰ります。」
「たまには俺の授業も受けてけよ。」
「明日は受けますから。」
「明日も呼び出しされて帰られたら溜まらないから、今日受けていけ。」

あぁ、本当に頭が痛くなりそうなやり取りだ。
半ば強制的に教室に連れ込まれた。
クラスメートは、その様子を笑いながら見ている。
『まぁ、おもしろいならいいか』
クラスメートが笑っていたので、『やれやれ』という仕草を大袈裟にして席に座る。

この英語教師の授業はつまらなくはない。
何でも、『英語を楽しく感じてもらいたい』がモットーらしく、授業中に洋楽をかける。
ベンチャーズやクラプトン、カーペンターズをかけることもあった。
今日はクラプトンの日のようだ。
音楽を聴きながら心地よく夢の世界へ飛び込んだ。

If I can change the world
I would be the sunlight in your universe

~つづく~
放課後のハミング~第三話~

2007/09/06 23:25 | Comments(0) | TrackBack() | 放課後のハミング

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