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2024/05/17 18:09 |
放課後のハミング~第三話~

気がつくと、授業が終わる時間に差し掛かっていた。
英語教師は冗談を交えながら、授業をしている。
そこで、英語教師は僕の名前を呼んだ。

「やっと起きたか。」
「はい、気分爽快です。」
そこで、英語教師はクラスメートに向かってこう言った。
「いいか、こいつはいい加減そうに見えるけど、提出物は必ず出すし、テストの点数もかなりいい。」
そこでクラスメートが一斉にこちらを向く。
僕は気恥ずかしくり、鼻を穿る仕草をして誤魔化した。
「ふざけた事をしてても、やることはやっている。白鳥は英語でなんて言う?」
「スワンですわん♪」
「咄嗟に聞いても答えられるだろ?こいつはスワンのように見えないところでしっかり泳いでいるんだ。」
クラスメートが再び僕の方を向いたので、クロールで空中を泳いで見せた。
「中学時代は一度しかない。楽しく過ごして欲しいけど、嫌なこともしっかりやるようにするんだぞ。」
そこでチャイムが鳴った。
英語教師が、授業を終わらせ教室を出る時、僕の方を向いたので中指を立ててやった。
すると彼は、笑いながら教室を後にした。

僕は、大学までエスカレーター式の私立中学受験に失敗している。
昔から、お説教をされることはあっても、褒められた記憶がないので、褒められる事になれていなかった。
優秀な兄を持つ僕は、小さい頃から常に兄貴と比べられていた。

小学校低学年の時だったろうか。
学校でのケンカで石を投げ、相手に大怪我をさせたことがある。
母と一緒に相手の家に謝りに行った。
相手の親は、「ケンカ両成敗ですから!」と気丈に言った。
そして、腰をかがめ僕の目線に高さを合わせると、「でもね、石とか道具を使うのは男らしくないよ。」と付け加えた。
家に帰ると、母は僕に向かって「何で、こんなことばっかりするの?お兄ちゃんみたいにいい子にできないの?」と言った。
僕は、何も答えられなかった。
すると母は、「あんたみたいな悪い子、産むんじゃなかった。」と言った。

小学生でも、この言葉の重みは分かる。
それは、言わば死刑宣告と同じであった。
数年経った今も、その言葉は僕に広く浅い傷跡を付けている。
傷という物は、深い傷の方が誰の目にも傷と映り、理解を得ることが出来る。

その頃から、僕は作り笑いをし、傷を見られないようにしている。
いつも笑っていることで、自分の弱さを隠しているのだ。

五時間目まで受けてしまったついでに、SHRも参加した。
担任は、僕に気づくと訝しげな表情をした。
僕は、大袈裟に舌を出し頭を掻きながら軽く首を動かした。
当然、担任も僕が生徒指導を受けたことや、話の途中で部屋を出たことも知っているのだろう。
担任は、クラス中に聞こえるようなため息をした。

僕は、担任に声をかけられる前に帰ろうとした。
すると、クラスメートの女子が僕を呼んだ。
「今週はウチの班が掃除当番でしょ!」と言う。
僕は「ごめん!父親が昏睡状態なんだ!」と言った。
「こんすいじょうたい?」と聞く彼女に、僕は英語教師のマネをし「スワンのようにがんばりなさい!」と言った。
「どういう意味?」と聞く彼女越しに担任が見えた。
「辞書の580頁!」と言い、慌てて教室を出た。
廊下を小走りで駆け抜けていると、後ろから「載ってないじゃん!」と叫び声がしたが、僕は気づかないふりをし、そのまま学校を飛び出した。
正門を出て角を曲がり、僕はタバコに火をつけ、ため息混じりに煙を吐き出した。
「あぁ~、疲れた。」

雲一つなく眩しく夕陽が輝く秋空が目の前に広がっていた。

~つづく~
放課後のハミング~第四話~

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2007/09/08 23:45 | Comments(0) | TrackBack() | 放課後のハミング

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