a short story

あれから幾月の時が経ったのであろうか。

僕は、相も変わらず忙しい日々を過ごしている。
しかし今の時間は、昔のそれと違っている。
明確に言い表せない辺りがもどかしいが、あの日を境に確実に変わった。

思えば、人生と言うものはそれの繰り返しではないだろうか。
一日一日が、分岐点である。
右か左か、上か下か、前か後ろか、YESかNOか。
つくづく選択を迫られる。
その選択が与える影響が大きいか小さいかで、人はそれを『日常』か『ターニングポイント』と分別する。

それに倣えば、あの一日は僕にとってのターニングポイントであったと言えよう。

人間の感覚である五感。
その裏に隠された直感とも言える第六感。
それが存在するかは判りかねるが、僕は間違いなくあの時『街の声』を聴いた。

肯定されるべき事実か、否定されるべき事実かは問題ではない。
それは、間違いなく『事実』であった。
それと同時に、それは僕にとっての真実であった。

迷ったら、またあの街へ行こう。
悩んだら、あの街へ。
苦しかったら、あの街へ。

僕の心に灯る光が消えかけたら。
あの街の喧騒に身を投じてみようと思う。
雑踏の影の中で、いつもより小さな光を見つけられると思うから。


～おわり～
雑踏の影～あとがき～