忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/17 21:09 |
初夏の風音~第三話~
夢の中で僕は、教師であった。
場所は夏休み目前の教室。
生徒に向かって「夏休みの宿題は無しだ!いっぱい遊んでいい思い出を作ってこい!」と言っている。
そんな僕に、学年主任の先生が「それは本当の優しさじゃないよ。」と言った。
その先生は中学時代に、最も慕っていた恩師であった。

「本当の優しさ・・・」

そこで目が覚めた。
休みだというのに、どれほど寝るつもりなのだろうか。
またしても外は暗くなっていた。

いつものローテーションから言えば、今日は定食屋の日だ。
しかし、そこはゴールデンウィーク。
どこもかしこも休業中だ。
仕方なくお湯を沸かすことにした。

「このままでいいのだろうか?」

それは孤独感を多分に含んだ焦燥感であった。

僕は普段は鳴る事のない携帯電話を手に取った。
この空虚感を埋める為に、誰かと繋がっていたかった。
多くは求めない。ただ、ありあまる時間を誰かと共有したかったのだ。

何人にメールをしたのだろうか。
アドレスが変わっていて、メールがそのまま帰ってくる人もいた。
僕の思いを載せた短い文章は、相手に届くことなく戻ってきた。
「出戻りメール」
行く当てを見失ったそのメールに自分を重ね合わせてしまったのか。
出てくるのは苦笑いだけだった。

「やっぱ実家に帰ろうかなぁ~」

そう考えている時に携帯が鳴った。
人付き合いが苦手な僕の数少ない女友達であった。


~つづく~
初夏の風音~第四話~
PR

2007/08/25 23:14 | Comments(0) | TrackBack() | 初夏の風音
初夏の風音~第四話~
僕は喜びと驚きに心を震わせ、携帯を開いた。
それは特別な内容ではなく、単なる現状報告のようなものであった。
『社会人になった』という環境の変化に、ストレスを感じているという事が分かった。

そこから、メールではあったが、連絡を取るようになった。
と言っても、一回もメールをしない日もあれば、一日に十数通のメールを送りあうことも合った。
朝のメール、昼休みのメール、帰宅後のメール。
いつしか、その何の変哲も無いやり取りが楽しみになっていた。

彼女は千葉にある実家から有楽町まで通っているという。
ドアtoドアで二時間もかかるというのだ。
そのせいか、通勤電車は専ら『仮眠』を取る時間であるそうだ。
残業のある日は、終電を人一番気にしなければいけなく、終電を逃した日は秋葉原の漫画喫茶に寝泊りすると言う。

そこで、僕は冗談半分に「終電逃したら、ウチに泊まりに来れば?(笑)」とメールしたこともある。
高校時代の友人が「(笑)をつければ、大概の事は許される!」と断言していたことを思い出したからだ。
その時、彼女は「うん、やばかったら連絡するね!」と言った。

そこに下心が無いといえば嘘になる。これでも僕は男だ。
ただ、その比重が他の女性に対するそれより遥かに少ないことは確かだった。
と言うのも、彼女には彼氏がいることを僕は知っていたからだ。

それからも、毎日のように連絡を取り合っていた。
音楽の話、テレビの話など、話題は本当に他愛も無いものだったが、二・三通に一度は必ずと言っていいほど愚痴をこぼしあっていた気がする。

正直、以前はそれほど仲が良かったわけではない。
しかし、『新入社員』という肩書きを持つもの同士、何か共感できるものがあったのかもしれない。

そんな生活が二週間ほど続いた頃、彼女がいない僕を気遣って女の子を紹介してくれるという事になった。
最初はどうしようか迷っていたのだが、業界が業界。
仕事関係で女性に知り合う事があまり望めないので、お願いすることにした。

そして、その日が今日である。
そう、一昔前に『華金』と言われていた、華の金曜日だ。
楽しみと緊張が相まって、正直なところ仕事に手がつかない。
僕は、フレックスタイム制という制度を初めて有効活用して、仕事を早く切り上げ、待ち合わせ場所に向かった。
お互いの職場の中間という事で、神田で待ち合わせたのだ。

どうやら、僕の方が先に着いてしまったようだ。
三十分ほど待った頃、電話が鳴った。


~つづく~
初夏の風音~第五話~

2007/08/26 00:14 | Comments(0) | TrackBack() | 初夏の風音

<<前のページ | HOME | 次のページ>>
忍者ブログ[PR]