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2025/05/10 18:21 |
放課後のハミング~第七話~
僕は、あの日からギターの練習に励んだ。
『一生懸命』なんて言葉は好きじゃないが、楽しくて仕方なかった。
気づくと『一生懸命』になっていたのだ。
それでも、一箇所だけ上手く弾けない場所があった。

僕は、英語教師に教わろうとし、ギターを学校に持っていった。
僕のガットを物珍しそうに眺める人、ガットを鼻で笑うエレキ派の人。
リアクションは様々であったが、僕はそんなものはどうでも良かった。
僕の今の目標は、あの曲を弾きたいだけなのだ。

しかし、予想外のことが起きたのだ。
生徒指導の教師がガットを見るなり、僕を生徒指導室に呼び出した。
なんでも、「授業に関係のないものを持ってくるな!」と言うのである。
僕は、その言葉に耳を疑った。

そもそも、僕は放課後に英語教師に教わるつもりで持ってきたのだ。
別段、誰に迷惑をかけている訳でもない。
人に悪影響を与えるものでもなければ、授業を妨害するものでもない。
それを、『授業に関係ない』という理由だけでお説教されるとは、呆れて何も言えなかった。
学校は『授業を受けるだけの場所ではない』と、僕は思ったのだ。
一通りの話を相槌で受け流し、僕は生徒指導室を出た。

すると、そこには英語教師がいた。
「聞いてた?」
「いや、今来たところだ。」
「何か、ギターを持ってくる生徒は不良らしいよ!」

そこで、僕を追って生徒指導の教師が出てきた。
「ギターを持ってきたぐらいで、こんな場所に呼び出すのはおかしいですよ!」
「授業に関係のないものは持ってきちゃダメだって決まってるでしょ?」
「僕が持って来させたんです。」

僕は驚いた。
この英語教師は僕を庇おうとしているのだ。
「いいって!俺が悪いんだからさ。」
僕がそう言うと、英語教師は
「いや、良くない。」と言った。

そして、生徒指導の教師に向き直り、矢継ぎ早に続けた。
「これは指導の一貫です。」
「どういうことだい?」
「こいつは、音楽を通して前を向こうとしているんです。それを聞きもせずに呼び出して説教をするのは、教師としてあるまじき行為です。」

僕は呆れ返っていた。
彼はどこまで熱血教師なのであろうか。
歯の浮くような言葉をスラスラと言ってのける。
それも、遥かに年上の先輩教師へ、怯むことなく進言しているのだ。

僕は嬉しかった。

考えてみれば、僕の事を体を張って守ってくれる人はいなかった。
僕もそうだが、人間というものは結局のところ自分が一番かわいい。
お世辞にも優等生とは言えず、むしろ問題児の僕を体を張って守っているのだ。
思わず、涙腺が潤んだ。
この感情を何と表現すればいいのだろう。
『嬉しい』なんて単純な言葉では表現しきれない感情だ。

「もういいって!」
僕は涙腺から涙がこぼれるのを振り払う為に、そう言った。
生徒指導の教師は僕の姿に驚いたのか、「そこまで言うなら分かった。」と言い、その場を後にした。

「あれ、弾けるようになったか?」
英語教師は、何事もなかったようにそう聞いてきた。
「一箇所、上手く弾けないところがあってさ」
僕はそれを言うだけでも大変であった。
「なんだよ、ちゃんと練習したのか?」
「したんだけどさ・・・」

『一生懸命練習した』と言うのは恥ずかしかった。

「指、見せてみろ。」
そう言われ、僕は左手を差し出した。
「ちゃんと練習したんだな!」
ガットを弾いているため、僕の指先は角質化し固くなっていた。

英語教師は、「放課後、ここに来いよ!教えてやるから。」と言った。
「ここで?」と、戸惑った僕に英語教師は笑いながら、
「お前らしくていいんじゃないか?」と言った。
「なんだよ、それ!」
そう答えた僕も笑っていた。

久しぶりに込み上げてきた感情は、懐かしい香りがした。


~つづく~
放課後のハミング~第八話~
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2007/09/14 23:32 | Comments(0) | TrackBack() | 放課後のハミング

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