忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/05/10 16:32 |
初夏の風音~第九話~
彼女が作ってくれた夕食は、想像をはるかに超えて美味しかった。
「すっごく、おいしい」と、僕がそう言うと友達は恥ずかしそうに「お世辞じゃない?」と聞いてきた。
その頬を赤らめた姿がとてつもなく愛しかった。
思わず、「いいお嫁さんになれるよ」と言うと、一転「相手がいればいいんだけどねぇ」と寂しげな表情をした。
その表情も愛しく感じた自分に気づいた時、僕はこの感情は恋であると理解した。

「僕じゃダメかな?」
それは、飾らない素直な言葉であった。
「えっ?」
そう言い驚いた表情をし、彼女は黙り込んでしまった。
その展開に慌てた僕は、「ごめんごめん、冗談だよ」と言い、その場を取り繕おうとした。
すると彼女は再び「えっ?」と言い、下を向いてしまった。
このような場面に不慣れな僕は、どうすれいいのか分からずに、ただ彼女を見ていた。
その静寂は一時間にも一日にも感じた。
平静を装うつもりでタバコを手に取ろうとすると彼女が泣いているのが分かった。
「本当にごめん。いきなり変なこと言って。」
もう、僕はどうして言いのか分からなかった。
すると彼女は、「すごく嬉しかったのに」と言い、声を出して泣き始めた。

『すごく嬉しかったのに』
この言葉が理解出来ず、頭の中で何度も何度も反芻していた。
「嬉し かっ た ?」僕の反芻は途切れ途切れの言葉となり声となっていた。
「うん。」そう言い、彼女は真っ赤にした綺麗な目で僕を見つめてきた。

その顔が愛しくて。
その目がとても澄んでいて。
僕は思わず彼女を抱きしめていた。

「ごめん」
「ありがと」

僕の胸に顔をうずめる彼女の涙の温もりがシャツ越しに伝わってきた。

「僕でも いい?」
「うん」

僕は不思議と『生まれてきて良かった』と思っていた。

「もう少しこのままでいい?」
そう言った彼女が愛らしく、再び抱きしめた。

それからどの位の時間が過ぎただろうか。
「あっ、後片付けしなきゃ。」と彼女が言った。
「いいよ、そんなの後でも」と返すと、「早く洗わなきゃ汚れが落ちにくくなるの」と言った。
このしっかりしているところもまた、可愛かった。
僕はタバコを吸いながら、その様子を眺めていた。

「時間は大丈夫?」そう聞くと。
「泊めてもらってもいい?」と言った。
「こんな部屋でよければ」といい、彼女を抱き寄せた。
「昨日、初めて会ったのにね」と彼女が照れたように言い、見つめてきた。
そっと口づけをし、抱き合った。
それから、狭いベッドで肩を寄せ合い、お互いの存在を確かめ合うように眠った。

幸せとは、突然に訪れるもので、それからと言うもの気がつくと彼女の事ばかり考えていた。

~つづく~
初夏の風音~最終話~
PR

2007/09/02 23:51 | Comments(0) | TrackBack() | 初夏の風音

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<初夏の風音~第八話~ | HOME | 初夏の風音~最終話~>>
忍者ブログ[PR]