今日は英語がある。
僕は英語教師が教室に来ると、昨日借りたCDを返しに行った。
「これ、ありがと。」
「おぉ、どうだった?」
「天国への階段が良かった。」
「イントロのアルペジオがかっこいいよな。」
「スコア持ってる?耳コピじゃ上手くいかなくてさ。」
「多分、家にあるぞ!明日持って来てやるよ。」
「悪いね!」
そう会話を交わし、席に着こうとすると異変に気づいた。
クラスメートが、不思議そうな表情で僕を見ているのだ。
僕は、みんなの表情が不思議であった。
席に着き、We Are The WorldをBGMに考えていた。
さっきの視線は何だったのだろうか。
少し考えると、答えは見つかった。
きっと、僕が教師と話しているのが珍しかったのであろう。
考えてみれば、僕は『お説教』以外では、教師と会話をほとんどしない。
それに加え、その会話を僕から切り出したことが不思議に思えたのだろう。
僕は自然と笑みがこぼれた。
澄み切った青色のキャンバスに、ミルクがこぼれたような斑点が浮かび上がっている。
それなのに、この窓枠は、その広大な天を切り取っていた。
僕は、切り取られた天を開放したくなり、窓を開けた。
季節は冬に差し掛かる頃、クラスメートからは「寒いから閉めろよ。」と声が上がる。
教師も見かねて、「みんなが風邪ひいたら困るから窓閉めろ。」と言った。
僕は「空は自由が一番でしょ」と答えた。
唖然として静まり返る教室でただ一人、英語教師だけが笑っていた。
空は束縛されてはいけない。
人間もそうだ。
僕たちは、様々なことに束縛されている。
法や道徳、時には不条理な束縛も存在する。
しかし、意志を持った人間は少しの勇気で束縛を取り除くことが出来る。
僕は空を見上げながら、ぼんやりと考えていた。
「少しの勇気か・・・」
遠くにいた空が、少しだけ近づいた気がした。
~つづく~
放課後のハミング~第七話~