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2025/05/10 16:58 |
初夏の風音~第六話~
目が覚めると僕は部屋に一人きりだった。
時計を見ると既に12時を回っていた。
昨日の騒がしさが嘘のように静まり返ったこの部屋。
ここは紛れも無く、いつもの僕の部屋である。

ベッドから起き上がり、タバコを取ろうとするとテーブルの上に紙切れがあった。
よく見ると手帳から切り取られた1ページに、電話番号とアドレスが書いてある。
そこには、彼女が仕事に出掛けるので、自分も一緒に帰ると書かれていた。
彼女は四週八休のうち、日曜日は固定休だが、あとの一日は毎週違うと言っていた。
きっと、今日は休みではなく仕事なのだろう。

そして手紙の最後には、鍵を閉めずに家を出てごめんなさい。と書いてあった。
しかし、よく気遣いが出来る人だなと思っていると、タバコの灰が手に落ちた。
タバコの火は800度にもなると言うのだから、それはもう熱い。
一人で熱い熱いと騒いでる自分が映る洗面台の鏡を見て、恥ずかしくなった。
きっとあの子なら、決して慌てず、冷静にやけどを冷やすのだろうと思ったからだ。

それから、いつものように天井を見上げていた。
こうして天井を見上げている時は、ぼんやりと考え事をすることが多い。
仕事の事を考えることもあるが、大体がくだらない考え事だ。
もちろん、今日も例外ではない。
アドレスを聞いたはいいが、何とメールをすればいいかを考えていた。
昨日のお礼を言うべきか、次の約束をするか。
何を書いて、何と帰ってきても次の返事が出せる状態にしたい。
できることなら、こちらからメールをやめることは避けたい。

「何か考えが理屈っぽいな。」

そう思い、笑いがこぼれた。
たった数ヶ月とはいえ、職業病とも思える考えが出てきたのは、やはり社会人として少しは成長している証なのだろう。

結局、上手い話題が浮かばず、やけどの事を話すことにした。
やけどをして一人で騒いでいたこと。
鏡に映った自分を見て恥ずかしくなったこと。
そして最後に、こんな時はどうすれば英国紳士のように見えるかを聞いてみた。

静かなこの部屋が希望で満ち溢れている気がした。


~つづく~
初夏の風音~第七話~
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2007/08/28 23:33 | Comments(0) | TrackBack() | 初夏の風音

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